“雇う”って、どういうこと?
〜障害者雇用の原点をたどる〜
職場での「雇用」には、さまざまな理由があります。人手不足の解消、
戦力強化、あるいは多様性の推進。障害者雇用もその一つに数えられます。
しかしながら、「雇わなければならないから」と
ネガティブな義務感として始める雇用も少なくありません。
法律上の雇用率がある以上、当然のことかもしれませんが、
それだけでは、職場の中に「なぜ雇うのか」「どう関わればいいのか」といった
ギャップやすれ違いが生まれやすくなります。
「雇わなければならない」から始まる違和感
「障害者を雇わなければならない」——。
この言葉は、多くの企業にとって、障害者雇用との最初の出会いかもしれません。
私はこの“義務”という入口に、どこか気持ち悪さに似た感覚を持っていました。
法定雇用率。
納付金制度。
書類上のカウント。
たしかに制度は重要です。
ですが、それだけに縛られていると、こんな声も聞こえてきます。
- 職場が混乱したら困る
- どう対応していいか分からない
- 過去にうまくいかなかったから…
- 現場に負担がかかるくらいなら、障害者雇用はせずに、
納付金を払った方が早いのではないか
障害者雇用が、制度としては“正しい”と分かっていても、
現場の準備や職場の理解が追いついていないと、
こうした“ためらい”が生まれるのも無理はありません。
「とりあえず支障のない仕事を」では、続かない
現場ではよくこんな声を聞きます。
- 責任ある仕事は任せにくい
- 単純作業ならやってもらってもいい
- 他の社員に迷惑がかからないように
でも、それで本当に“雇った”ことになるのでしょうか?
業務のための人員ではなく、制度のための人員。
そんな状態で、誰が誇りを持って働けるでしょう。
「強みを活かす」とはどういうことか
ある企業で、発達障害のある社員がデータ入力をコツコツと正確に続けていました。
ぱっと見は単純な作業でも、正確性と集中力が欠かせない仕事です。
彼は、愚痴ひとつこぼさず、同じペースを崩さずに取り組みます。
やがて周囲は気づきます。
「あの人がやると、確実で速い」
単調に見えたタスクを、黙々とやり遂げるその姿勢が、
じわじわとチームに信頼を広げていきました。
「チームの中にいる」という実感
障害者雇用がうまくいっている職場では、
「戦力になるかどうか」だけではなく、
「互いに補い合える存在」として、お互いを認識しています。
たとえば、繰り返しの多い業務や地味な作業でも、
それを安定して担ってくれる存在がいることで、チーム全体のリズムが整っていく。
コツコツと取り組む姿勢が、周囲の空気をやわらかくし、安心感を生むこともあります。
やがて、「あの人がいてくれて本当に助かっている」
そんな言葉が自然とチームから聞こえはじめるのです。
“雇う”とは、ただ働いてもらうことではない
障害者雇用を、義務から「活かす」へと転換するには、
「働けるようにする」ではなく、
「一緒に働くにはどうしたらいいか」を考えること。
“育てられる職場”は、障害者だけでなく、すべての人に優しい環境になります。
人の違いを許容し、工夫し、活かしていく——
それが、これからの職場のかたちではないでしょうか。
おわりに:義務の先にある“組織の強さ”
障害者雇用は、最初こそ“義務”で始まるかもしれません。
でも、それを「どう活かすか」は、組織の力が問われる問いでもあります。
「誰かのために」した配慮が、「自分たちの働きやすさ」にもつながっていた。
そんな職場こそが、これからの時代に強くしなやかなチームとなるのだと思います。