「また一人、休むことになったそうだよ」
そんな声が職場に流れるとき、どこか“悪いことをした人”のように語られてしまう。
心配よりも先に、距離や違和感がにじむ――。そんな空気を感じたことはないでしょうか。
メンタルの不調で休職する人が増えている今、それでもなお
「休む=迷惑をかけること」「弱さを見せてはいけない」
といった空気が根強く残っています。
その結果、「しんどい」と声を上げづらくなり、無理を重ねてしまう。
そんな連鎖が起きているのです。
だからこそ、休職からの「復職支援」は、単なる制度対応ではなく、
職場全体のあり方を見直すチャンスでもあります。
なぜ「復職支援」が企業にとって重要なのか
精神疾患による休職からの復職支援は、ただ一人の従業員を支えることにとどまりません。
その人が再び自分らしく働けるように、職場がどう受け止め、どう寄り添っていくか――
そのプロセスは、企業文化の礎を形づくっていきます。
たとえば、こんな効果が期待できます:
人材の確保と定着
経験やスキルを持つ従業員が安心して職場に戻れることは、それ自体が企業にとっての強みです。生産性の安定と向上
無理のない働き方ができる環境は、復職者本人だけでなく、周囲のメンバーのパフォーマンスにも良い影響を与えます。心理的安全性の醸成
誰もが「安心して働ける」と感じられる職場は、離職防止や人材育成にもつながります。企業イメージの向上
メンタルヘルスに誠実に向き合う姿勢は、社内外からの信頼につながります。リスク回避と法的配慮
適切な対応を怠ることで起こる労務トラブルを未然に防ぐ意味でも、支援体制の整備は不可欠です。
復職までの一般的なステップ
企業の方針や就業規則によって異なる部分もありますが、
ここでは一般的な復職支援の流れをご紹介します。
1.休職中の連絡と配慮
「体調のこともあるだろうから、無理のない範囲で大丈夫。何かあったら、いつでも言ってね」
こんな一言が、休職中の不安をやわらげてくれることがあります。
実際、休んでいる当事者の多くが感じるのは、
「申し訳なさ」と「取り残されるような不安」の入り混じった複雑な心持ち。
連絡が多すぎれば負担になり、まったくないのも不安になる。
だからこそ、「気遣いすぎない気遣い」が必要です。
2.主治医や専門職との連携
復職にあたって提出されるのは、診断書よりも**「意見書」**が求められる場面が増えています。
たとえば:
どの程度の時間働けるのか
通勤は可能か
現在の生活リズムはどうか
睡眠や服薬は安定しているか
ストレス耐性に関して注意点はあるか
こうした具体的な情報を把握しておくことで、現実的かつ安心できる復職支援がしやすくなります。その過程で、産業医との連携、場合によっては医師との面談や文章のやり取りを含めた丁寧な調整が必要です。
3.段階的な「慣らし」の工夫
「いきなりフルタイム」ではなく、最初は週2日・午前中だけの出勤から始めたり、リワークプログラムに参加したり――
職場復帰に向けた“ウォーミングアップ”期間を設けることは、本人にとっても、職場にとっても重要です。
「少しずつ慣れていけばいいんだ」と思えるだけで、心の負担がずいぶんと軽くなるものです。
ただし、就業規則によっては「復職=フルタイム勤務再開」と明記されている場合もあり、
その場合は産業医の判断を交えて柔軟な対応が求められます。
4.職場復帰支援プランの作成
復職が決まったら、それが“ゴール”ではなく**“新しいスタート”。**
勤務日数・業務内容・面談の頻度などを具体的にすり合わせていきます。
本人との合意形成を図ることで、復帰後の見通しも立てやすくなります。
企業にできる具体的なサポートとは?
復職支援のポイントは、「制度」だけでなく「空気」や「関係性」にもあります。
企業が実践できるサポートの例をいくつかご紹介します。
● 環境の調整
業務内容の調整
復帰直後は業務量や責任を抑えめにし、徐々に元の状態へ戻していくステップが効果的です。勤務形態の柔軟化
短時間勤務・時差出勤・テレワークなど、その人に合ったスタイルを一緒に検討します。職場環境の工夫
静かな作業スペースの確保や、少し休める場所を用意するなど、見逃しがちな環境面の整備も大切です。
● 周囲の理解とコミュニケーション
「おかえりなさい。待ってたよ」
たった一言でも、そんな言葉があるだけで、復職初日の緊張がふっとゆるむことがあります。
上司・同僚への周知
本人の了承を得た上で、必要な範囲で情報を共有し、適切な配慮とサポートの姿勢を整えます。偏見や誤解を減らす取り組み
精神疾患や休職に対する社内理解を深めるため、研修や情報提供を行うことも有効です。
● 継続的なフォローアップ
定期的な面談
体調や業務の進み具合について、人事や上司と定期的に対話する機会を設けましょう。外部支援の活用
必要に応じて産業医、EAP(従業員支援プログラム)、地域の精神保健福祉機関と連携を図ります。
特別扱いではなく、「誰もが働きやすい環境」へ
ある人のために整えた配慮が、気づけば他の人の働きやすさにもつながっていた――
そんなことが、復職支援の現場ではよく起こります。
たとえば柔軟な働き方や静かな休憩スペースは、育児や介護と両立する人にも有効です。
精神的な不調を「例外」ではなく、「ありうること」として受け止め、支え合うこと。
それは、企業の未来を支える“人”を守るという視点でも、欠かせない土台です。
最後に
復職支援に決まった正解はありません。
けれど、一人ひとりの状態に応じて、会社も周囲も「どう関わっていくか」を考えること。
それは結果的に、「誰もが安心して働ける職場」をつくる大きな一歩になります。