「発達障がい学生の採用・定着支援|企業が知っておくべき5つのポイント」

障がい者雇用・採用
✓ 障がい者雇用の定着率を上げたい人事担当者
✓ 合理的配慮の提供方法を知りたい管理職
✓ 障がい者雇用の業務切り出しで悩んでいる現場責任者

はじめに

最近、就職活動の終盤になって「自分、発達傾向があるかも?」と気づく学生が増えてきました。
大学では特に問題なく過ごせたけれど、就活という「社会との接点」に出たとたん、慣れない環境や人間関係に苦しみ、自分の特性に直面することも。

中には、そのまま支援につながれないまま就職し、入社後に困難が顕在化するケースもあります。
企業もまた、「採用してから“あれ?”と感じる」場面に戸惑い、うまく対応できず、結果的に離職やメンタル不調につながってしまうことも──。

これは本人にとってだけでなく、大学や企業にとっても、それぞれが思わぬ困難やジレンマに悩まされる問題でもあります。


気づきの遅れが生む負のスパイラル

ちょっとした忘れ物やうっかりミス、面接でのフリーズ──
そんな“よくあること”に見える行動の裏に、本人の苦しさが隠れていることがあります。

たとえば、私立大学文学部4年のAさんは、最終面接まで進んだ企業で「あなたの強みを3つ教えてください」と質問され、準備していたはずの答えが真っ白になり、言葉が出ませんでした。

面接後、Aさんは「またやってしまった」「こんな自分は社会で通用しない」と強く自分を責め、就活への不安が一気に高まります。

実はAさん、小学生の頃から
・「場面で言葉が出てこない」
・「空気が読めない」
と指摘されてきた経験がありました。

でも、それらは「緊張しやすい性格」や「準備不足」といったラベルで片付けられ、特性としては見過ごされてきたのです。

そのまま本人にも周囲にも理解のないまま就活に突入した結果──
Aさんの中には「なぜかうまくいかない」「自分だけが取り残されている」という感覚が強まり、就活そのものから遠ざかりたくなる気持ちが膨らんでいきました。

こうした状況は、自己肯定感の低下にもつながります。
「なんで自分だけ…」と自責を深めるうちに、自分の可能性まで疑い始めてしまう。
そんな悪循環に陥る学生も、決して少なくありません。


そしてもう一つ、支援が遅れる背景として見落とせないのが「親の存在」です。

「うちの子を障がい者扱いしないでください」
「そんなラベルを貼られたら将来が閉ざされる」──

そんなふうに、支援の機会から距離を取ろうとする保護者もいます。

もちろん、その背景には
・わが子の将来を思う親心
・社会的な偏見やスティグマへの恐れ
があるのだと思います。

けれども、その“守り”が結果的に、
・子どもの自己理解の遅れ
・支援に出会うタイミングの喪失
・「なぜかうまくいかない」「自分だけ取り残されている」という感じが膨らみ
自信を失ってしまうことがあるのです。

就活という初めての「社会との接点」で、ようやく気づく「自分のしんどさ」。
けれどそのときには、もう誰にも相談できないほど自信を失っている──
そんなケースが、実際に起きています。


大学はどう支えている?──その現状と課題

大学には、キャリアセンター、障害学生支援室、教務課など、学生を支える複数の部署があります。
けれども現場では、以下のような課題が浮かび上がっています。

・本人が申告しないと対応できない
・担当部署が分かれており、情報が共有されにくい

たとえば、ある国立大学では、キャリアセンターが「この学生、就活に強い不安を感じていそうだ」と気づいても、障害学生支援室との情報連携ができず、支援につながらないまま卒業を迎えたケースがありました。

その学生は卒業後、就労できないまま自宅で引きこもり状態に。
家族の働きかけで医療機関につながり、軽度のASD(自閉スペクトラム症)と診断されたといいます。

「もっと早く気づいていれば…」
支援者からそんな後悔の声もあがったそうです。

また、「障害」として診断を受けていない学生の場合、「配慮の対象にならない」という壁にぶつかることもあります。

プライバシーへの配慮と、支援の必要性──
この両立をどう図るか。現場では、いまも模索が続いています。


「あれ、このまま卒業しても働ける気がしない」

そんな不安を抱えた4年生が、キャリアセンターにぽつりと相談に来るケースが増えています。
就職活動の壁にぶつかって、ようやく「もしかして自分って…?」と気づく。でも、何から始めればいいか分からない。
そんな学生にとって、就労移行支援という“実践の場”が、もうひとつの選択肢になりつつあります。

実は、2017年の制度改正で、大学4年生も一定条件のもとで就労移行支援を利用できるようになりました。
支援スタッフと伴走しながら、「実際に働くって、どういうこと?」を少しずつ掴んでいく。
「失敗しても大丈夫な場所」で練習できることが、不安の鎧を少しずつ剥がしてくれるようです。


「困りごと」でつなぐ支援の入り口

「診断があるかどうか」ではなく、
「何に困っているか」から支援を始める──
そんな視点が、少しずつ広がってきています。

たとえば、以下のような“つまずき”に対して、
・エントリーシートの締切を何度も過ぎてしまう
・面接で「何を言えばいいかわからない」と立ちすくむ

そうした小さなサインをきっかけに、大学では面談やワークを通じて“言語化”する取り組みが始まっています。

一見すると些細な行動かもしれませんが、
「なぜできなかったのか」「どこで困っていたのか」を丁寧に振り返ることで、学生自身が“自分の働きやすさ”を考える入口になります。

つまり、診断の有無に関係なく、
・「何があれば働けそうか」
・「どんな環境なら力を発揮できるか」
そうした“自分に合った働き方”を見つけていくことができるのです。


繋がりのある支援モデルへ──大学・支援機関・企業の連携

学生の“困りごと”に気づいたあと、
それをどう支援につなげるか──
ここで鍵になるのが、大学内外の連携です。


「ここなら、自分でもやっていけるかも」
初めてそう思えたのは、インターン先のデスクに座ったときだった──と、ある学生が話してくれました。

通信系企業と大学が連携してつくった“職場体験型インターン”。そこでは、
・音の少ない空間
・視覚的な業務指示
・「できたこと」を丁寧にフィードバックする面談
…といった細やかな配慮が組み込まれていました。

特別扱いではなく、「このやり方のほうが、誰にとっても分かりやすい」。
そんな風土がある職場に触れたことで、「働くこと」が少しだけ身近になったのだそうです。


また、大学キャリアセンターと地域の障害者就業・生活支援センターが連携し、ジョブコーチを紹介するケースも出てきています。

さらに近年では、
「キャリアセンター → 就労移行支援 → 企業」の“三者連携”モデルも広がりつつあります。

たとえば:
・学生が就労移行支援事業所で“実務練習+自己理解”を進めながら、企業インターンに参加
・企業は静かな職場環境、丁寧な指示、フィードバック体制などを整備
・終了後には、大学と企業で学生をフォローする面談を実施

こうした“就活 × 移行支援 × 企業体験”のサイクルが、学生の「卒業後も安心して働ける準備」につながっています。


まとめ:大学時代は「自分を知る・つながる」ための大切な時間

発達特性に気づかず、
就活や社会生活でつまずいたあとにようやく支援にたどり着く──
それは「後手の支援」です。

そうではなく、
大学生活の中で「なんとなく困っている」感覚に気づき、
早い段階で支援とつながれる仕組みが必要です。


そして、ここで大切なのは、
「診断の有無」や「障害者枠」といったラベルの有無ではなく、個別の“困りごと”に注目する視点です。
・誰かと比べて劣っているかではなく
・今、自分はどこでつまずいているのか
・どんな環境なら、自分は力を発揮できそうか

こうした視点で、若者たちが自分の特性を前向きに理解できる機会を持てることが、将来の希望につながります。


「気づき」と「つなぎ」が早ければ、
就活は“試される場所”ではなく、“自分を知るチャンス”になる。

そして、大学・支援機関・企業がそれぞれの役割を越えてつながっていくことで、
「誰もが自分らしく働ける社会」へと一歩近づいていくはずです。

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