「健康な会社って、どんな会社ですか?」―支援現場で感じた、人を大切にする経営の本質

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📌 こんな方におすすめの記事です

  • 従業員の体調不良や離職に悩んでいる経営者・人事責任者
  • 「働きがいのある職場」を作りたいと思っている管理職
  • 健康経営と障がい者雇用の関係について知りたい方

「健康経営」は単なる流行語ではなく、企業の“これからの成長戦略”を左右するキーワードになっています。
本稿では、支援現場で見えてきた「健康経営の本質」と「導入・定着のポイント」を、事例を交えてご紹介します。

はじめに:支援現場で気づいた「健康」の意味

障がい者雇用の支援をしているので、様々な企業の情報にアンテナを働かせています。

その中で、最近よく受付などで、とある掲示物が増えてきましたが、皆様は気がついたことあるでしょうか?

「健康経営宣言企業」

何だそれ?「また新しい制度の話か」と懐疑的に思う方も少なくないのかもしれません。

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。つまり、従業員の健康を「個人任せ」にするのではなく、会社として積極的に健康づくりを支援し、それを企業の成長戦略として位置づける経営手法のことを指します。

でも実際に、健康経営に積極的な企業ほど、従業員の離職率が低く、生産性が高く、職場の雰囲気が明るいという特徴があります。さらに障がいのある方の受け入れもスムーズで、職場全体の雰囲気が温かいのです。

これはいったいどういうことでしょうか?

その答えを探っていくうちに見えてきたのは、「人を大切にする」という共通の想いでした。

数字が物語る、避けられない現実

まず、私たちが向き合わなければならない社会の現実を見てみましょう。

生産年齢人口の推移
1995年:8,716万人
2020年:7,509万人
2050年:5,275万人(推計)

なんと、この30年余りで、働き手は3,441万人も減少する見込みです。

実際に関わる支援現場でも、この人手不足は深刻な問題として実感しています。「良い人がいれば採用したいけれど、なかなか見つからない」という声を、どの企業からも聞くようになりました。

だからこそ、企業にとって「今いる従業員」の価値は、これまでとは比較にならないほど高まっているのです。

ここで質問です。

従業員に対して、「人手不足になるから大切にする」のか、それとも「働く従業員を一人の人間として大切にする」のか。どちらでしょう。

この違いは、実は職場の雰囲気に大きく表れるものです。「仕事できないなら辞めてもらっても構わない」「人なんて代わりがたくさんいる」「いい人材が来るまで採用に力を入れよう」――こういった昔ながらの考え方は、通用しない時代がきているのです。

あなたの職場では、従業員一人ひとりが「大切な仲間」として思い合えていますか?

健康経営とは何か?―制度の向こうにある想い

あらためて説明すると健康経営とは、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されています。

2013年の「日本再興戦略」で国家戦略として位置づけられ、現在では以下の企業が認定を受けています。

健康経営優良法人認定企業数(2025年)
大規模法人部門:3,400社(うち上位500社が「ホワイト500」)
中小規模法人部門:19,796社(うち上位500社が「ブライト500」)

この数字を初めて見たとき、これほど多くの企業が、従業員の健康を「経営課題」として捉えていたことに驚いた記憶があります。

そして健康経営という「制度」そのものの話ではなく、「なぜ、これらの企業は健康経営に取り組むのか?」「そこにどんな想いがあるのか?」「どんなメリットがあるのか」――そんな疑問を持つことになったのですが、その答えは、実際の企業事例の中にありました。

企業事例に見る「本気度」

オムロンヘルスケア株式会社の取り組み

この会社では、従業員全員に血圧測定を習慣化させ、スマートフォンアプリでデータを管理しています。さらに、測定データを基に栄養管理士が個別指導を行い、従業員の「行動変容」を促す仕組みを構築しています。

この事例で印象深いのは、「測定して終わり」ではなく、「そのデータをどう活かすか」まで考えられていることです。

これは、障がい者雇用の現場でも同じだと感じます。「雇用して終わり」ではなく、「その人がどう活躍できるか」を継続的に考える企業ほど、良い結果を生んでいるのです。

ネッツトヨタ山陽株式会社の工夫

従業員に電子万歩計を携行させ、ウォーキングコンテストを実施。「楽しみながら継続できる」環境を整備し、自発的な健康行動を促進しています。

この「楽しみながら」という視点が継続するためには大切だと思っており、義務感ではなく自然と続けたくなる仕組みを作る。これは、どんな取り組みにも共通する成功の秘訣ではないでしょうか。

私が感じた共通点

これらの事例を見ていて気づいた一つの共通点は、どの企業も、従業員の健康を「個人の責任」にしていないということです。

従来の企業の中にあった「体調管理は自己責任」という考え方から、「従業員が健康でいられる環境を作るのは会社の責任」という考え方への転換。この発想の転換こそが、健康経営の本質なのだと思います。

そして、これは障がい者雇用でも全く同じです。「障がいがあるから配慮が必要」ではなく、「誰もが働きやすい環境を作ることで、結果として障がいのある方も活躍できる」という発想。根底にあるのは、どちらも「人を大切にする」という同じ想いなのです。

支援現場で見えてきた「導入後の現実」

実際に支援の現場で感じるのは、どんなに優れた制度を導入しても、「現場での小さな対話」や「一人ひとりの変化」を丁寧に支えていくことが欠かせない、ということです。

健康経営を始めた企業の中には、「制度は整えたけれど、なかなか現場に浸透しない」「従業員の反応が思ったほど良くない」と悩む声も少なくありません。

導入後によくある課題

  • 導入当初は経営陣の熱意に押されて始まった取り組みも、日常業務に追われる中で形骸化してしまう
  • 健康診断の受診率は上がったが、その後のフォローが行き届かない
  • ストレスチェックは実施したが、高ストレス者への具体的な支援策が見つからない
  • 「制度はあるが機能していない」状況に陥ってしまう

そんな時こそ、従業員の本音を聴き取り、一人ひとりの状況に応じた支援を行うことが重要になります。導入はゴールではなく、そこからが「対話のはじまり」だと思っています。

だからこそ、制度導入の前では、現場の声を拾い集める働き、後では、キャリアコンサルティングなどによるフォローが大きな鍵になると感じています。制度と人との間に立って、変化を支える伴走者の存在が、健康経営を本物にしていくのです。

結局のところ、制度を導入するだけでは、現場の行動や意識は変わりません。しかし、キャリアコンサルティングやメンタルヘルス支援のように、「対話を通じて気づきを育てる」仕組みがあると、制度が”生きたもの”になっていきます。

たとえば、キャリコンによる1on1の対話や、専門家が伴走するワークショップは、従業員の内面にある”働く意味”や”自分らしさ”を引き出すきっかけになります。制度を「やらされるもの」から「自分たちでつくるもの」へと変えていく、この小さな仕掛けが、健康経営を根づかせる鍵になるのです。

そして、こうした取り組みが根づくと、従業員に変化が現れます。ここで、「エンゲージメント」という言葉について説明させてください。

エンゲージメントとは、従業員が会社に対して持つ「愛着」や「この会社のために頑張りたい」という気持ちのことです。

とある企業にて印象深い変化について聞いたことがあります。その企業では、健康経営の取り組みを始めた後、従業員の方々の表情が明らかに変わったそうです。以前は「また今日も仕事か…」という感じだったのが、「今日はどんな一日になるかな」という前向きな雰囲気に変わったのです。

その理由を従業員の方に聞いてみると、「会社が自分たちの健康を本気で考えてくれているのがわかって、自分も会社のために頑張りたいと思うようになった」という答えが返ってきました。

会社が従業員を大切にする。だから、従業員も会社を大切にしたくなる。

この自然な気持ちの循環が、エンゲージメントの正体なのです。

施策を「やらされるもの」ではなく「自分たちのもの」になっていますか?

障がい者雇用との意外な関係

私がこの仕事をしていて、いつも感じることがあります。健康経営に積極的な企業ほど、障がい者雇用もうまくいく傾向があるということです。

なぜでしょうか?

その理由は、健康経営も障害者雇用も根底にある考え方が同じだからです。健康経営では、「従業員が健康でいられる環境を作る」ことを重視します。障がい者雇用では、「誰もが働きやすい環境を作る」ことを重視します。どちらも、「環境を整える」ことに焦点を当てているのです。

特に障がいのある方を迎え入れる場面で、私がよく目にするのは、最初は障害者に対して「どう接すればいいかわからない」と戸惑っていた職場が、お互いを知る過程で「この人がいてくれて良かった」という関係性に変わっていく瞬間です。

この変化は偶然生まれるものではありません。心理的安全性(職場で誰もが安心して自分の意見を言ったり、失敗を恐れずにチャレンジできる環境のこと)を段階的に築いていくプロセスが必要であり、そこにはキャリアコンサルティングやメンタルヘルスの専門的な支援が大きな力を発揮します。

障がい者雇用を進める過程で自然に生まれる変化

  • 業務の定型化・工程の見える化
  • コミュニケーションの活性化
  • お互いを思いやる組織文化の醸成
  • 心理的安全性の向上

これらは健康経営が目指すものと重なります。

車椅子の方が働きやすいよう段差をなくすことは、足腰の弱い方にも優しい職場になります。発達障がいのある方のために業務手順を整理することは、新人の方にも分かりやすい職場になります。

業務の標準化だけでなく、「対話の場づくり」や「個別の不安への寄り添い」が、多様性を受け入れる文化を本物にしていく。つまり、「一人の人を大切にする」ことが、「みんなにとって良い職場」を作ることにつながるのです。

そして、こうした環境は心理的安全性を高め、ウェルビーイング(心身ともに満たされ、充実感を持って働ける状態)やエンゲージメントの向上にもつながっていきます。

誰もが「自分らしくいていい」と感じられる空気が流れているでしょうか?

小さな一歩から始まる変化

もちろん、健康経営には現実的な課題もあります。認定申請には費用がかかり、体制構築のためのマンパワー、データ整備・分析の作業なども発生します。「うちのような中小企業には無理だ」と感じる方もいらっしゃるでしょう。

でも、私が見てきた企業の多くは、大掛かりなことから始めたわけではありませんでした。

ある企業では、こんな小さなことから始めました。

  • 毎朝の「おはようございます」を、少し丁寧に言うようになった。
  • 「お疲れさま」を、心を込めて伝えるようになった。
  • 体調の悪そうな人に「大丈夫ですか?」と声をかけるようになった。

これらは、お金のかからない取り組みです。

でも、3ヶ月後、その企業では体調不良による欠勤が明らかに減りました。「なぜですか?」と聞くと、従業員の方からこんな答えが返ってきました。

「会社が自分たちの体調を気にかけてくれているのがわかって、自分でも気をつけるようになった」「前は体調が悪くても無理して出社していたけれど、今は『無理しないで休んで』という雰囲気になった」

小さな「思いやり」の積み重ねが、大きな変化を生んだのです。

明日の朝、あなたが職場で最初にできる「小さな思いやり」は何でしょうか?

まとめ:制度を超えた、想いの循環

健康経営は、単なる制度や認定の話ではありません。それは、「この会社で働く一人ひとりの人生を、本気で大切に思っている」という企業の想いを形にする取り組みなのです。

生産年齢人口が減少し、人材確保が困難になる時代だからこそ、「今いる従業員」一人ひとりが心身ともに健康で、やりがいを持って長く働き続けられる環境をどう作るか。それは、企業の持続的成長にとって、もはや「必須」の取り組みとなっています。

でも、最も大切なのは、「人を大切にする気持ち」を日々の小さな行動で表現し続けること。私が企業の支援をしていて感じるのは、こうした取り組みが制度の整備から始まり、最終的には「人と人との信頼関係」に着地していくということです。その積み重ねが、本当の意味での「健康な会社」を作っていくのだと、私は信じています。

あなたの会社では、従業員の皆さんが「大切にされている」と感じられているでしょうか?

健康経営を「制度」ではなく「文化」として根づかせていくために、どんな一歩から始められるのか。従業員の声をどう聴き、どんな支え方をすればいいのか。

現場に寄り添いながら、御社に合った形を一緒に探していきませんか。健康経営や障がい者雇用を通じて、一人ひとりが大切にされる職場をつくるための最初の一歩を、ともに考えていけたら嬉しいです。小さなご相談でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。