📌 こんな方におすすめの記事です
障がい者雇用のミスマッチや早期離職に悩む人事担当者
2025年施行の就労選択支援制度について、企業の視点から知りたい方
「法定雇用率」や「助成金」以上の価値を障がい者雇用に見出したい経営者・管理職
採用現場のリアル
障がい者雇用における採用の現場には、独特の緊張感があります。
面接室のドアが開き、候補者が入ってくる。担当者は数十分という限られた時間で、その人が会社に合うかどうかを判断しなければなりません。
「誠実そうだ」「頑張り屋に見える」──面接の場ではそう映ったのに、入社して数週間が経つと「思った以上に支援が必要だった」「配属先がうまく適応できなかった」といった事態に直面する。
また、「配慮が必要です」と言われても、具体的に何をすればいいか分からず、現場が戸惑ってしまう。
採用担当者の多くが、一度は経験している光景ではないでしょうか。
人事担当者が抱えるリアルな悩み
実際によく耳にする声を挙げてみます。
「面接では良い人だと思ったのに、入社してみたら想定外の支援が必要だった」
「頑張って採用したのに、早期離職につながってしまった」
「『配慮が必要です』と言われても、具体的に何をすれば良いのか分からず、現場が混乱した」
これらは、冷たい企業だから起きるのではありません。むしろ誠実に取り組んでいるからこそ直面する”自然な悩み”です。
そしてこの悩みは、企業だけのものではありません。求職者である障がいのある方自身も、「自分にどんな仕事が合うのかわからない」「職場で必要な配慮をうまく伝えられない」そんな不安を抱えながら就職活動に臨んでいます。
お互いが歩み寄りたいのに、すれ違ってしまう。企業も本人も真剣だからこそ生まれる”すれ違い”があります。
新しい制度は「義務」か「チャンス」か?
「法定雇用率の引き上げ」「除外率制度の見直し」「就労選択支援制度の創設」──
こうしたニュースを耳にすると、多くの人事担当者は「また新しい義務が増えるのか」と身構えているかもしれません。
しかし、2025年10月から本格施行される「就労選択支援」制度は、従来の制度と大きく性質が異なります。
✅ これは企業に新しい法的義務を課すものではありません
まずは 新規にB型を利用する方 を対象に始まる制度であり、企業に直接の義務はありません。
ただし、制度で得られるアセスメント情報は、採用や定着の場面で有効に活用できる可能性があります。
就労パスポートを知っていますか?
企業の人事担当者の皆さん、「就労パスポート」をご存知でしょうか?障害のある方が自分の特性や配慮事項をまとめた、いわば”働くための履歴書”のようなものです。しかし、このパスポート作成には時間と専門知識が必要で、なかなか質の高いものを作るのは難しいのが現実でした。
就労選択支援制度=「プロ版就労パスポート作成代行サービス」
そんな中、2025年10月から始まる「就労選択支援制度」は、まさにこの就労パスポートの「プロ版作成代行サービス」とも言える画期的な仕組みなのです。
従来の就労パスポート:
- 本人の自己申告ベース
- 「参考程度に見る資料」という扱い
- 客観性に課題
就労選択支援のアセスメント結果:
- 専門機関が客観的に評価
- 職場実習で実証済みのデータ
- 採用判断の重要な材料として活用できる信頼性
つまり、就労選択支援制度 = 就労パスポートの「プロ版」+ 職場での実証テストと考えていただければ分かりやすいでしょう。
なぜ、この制度は生まれたのか?
既存の制度が抱えていた「隙間」を埋めるために生まれました。
課題1:「訓練ありき」のミスマッチ 従来の就労移行支援では、利用者がまず訓練を選び、その中でアセスメントが行われました。しかし、そもそも「どの訓練が自分に合うか?」が分からず、訓練そのものがミスマッチにつながってしまうケースが多々ありました。
課題2:「制度の壁」による機会損失 障がい者職業センターの職業評価は専門的で非常に有効ですが、利用にはハローワーク経由など一定の手続きが必要です。また、その存在を知らない方も多くいました。
就労選択支援は、本格的な訓練や就職活動の前段階に位置する、いわば「就労の羅針盤」なのです。
就労アセスメントで「見える化」される情報
この制度の核は「就労アセスメント」です。面接や書類では分からない情報を、多角的に評価します。
評価項目 | 内容 |
---|---|
作業遂行能力 | 指示理解力、正確性、スピード、集中力 |
職業生活力 | 生活リズム、体調管理、出勤率 |
対人関係 | 報告・連絡・相談、協調性 |
特性・配慮事項 | ストレス対処法、苦手な環境、合理的配慮の内容 |
具体例:事務職を希望するAさんの場合
アセスメントによって以下のような具体的な情報がわかります。
- パソコン入力: 1分間に○○文字、正確性95%
- 指示理解: 文書での指示は得意、口頭では確認が必要
- 体調管理: 週4日勤務から開始、段階的に週5日へ移行可能
- コミュニケーション: 1対1は問題なし、大人数の場では緊張しやすい
こうした情報があれば、採用判断は「何となく大丈夫そう」という曖昧な勘から、「この業務なら確実に力を発揮できる」という確信へと変わります。
実務上の疑問にお答えします
Q: 誰がこの制度を実施するのですか?
A: 都道府県や市町村から指定を受けた専門の事業所が実施します。社会福祉法人、NPO法人、株式会社など様々な法人格の事業者が参入予定で、全国で約300~500事業所程度の設置が見込まれています。企業の役割は任意での職場実習受け入れや、アセスメント結果の活用です。
Q: すべての応募者に適用する制度なのですか?
A: いいえ。実際の運用は以下のようなパターンになります:
- パターン1: アセスメント済みの方が応募→その詳細な情報を採用判断に活用
- パターン2: ハローワーク経由で応募→アセスメント結果が共有される場合に活用
- パターン3: アセスメント未受験の方→従来通りの採用プロセス
- パターン4: 人材紹介会社経由→今後連携する会社が増える見込み
つまり、「全員が受けなければダメ」ではなく、「受けている人の情報は有効活用しよう」というスタンスです。
Q: 既存の障害者雇用支援制度との違いは?
A: 明確な役割分担があります:
制度 | 主な目的 | 期間 | 例え |
---|---|---|---|
就労移行支援 | 職業能力を高める訓練 | 原則2年間 | 本番に向けた集中トレーニング |
就労選択支援 | 自己理解を深めるアセスメント | 原則1か月 | 自己分析と模試 |
就労選択支援は「働く前の準備段階」での支援です。一方、障害者就業・生活支援センターや職場適応援助者(ジョブコーチ)は「働き始めてからの支援」が中心です。
企業にとってのメリット
✅ 採用の「質」が劇的に向上する
1. 採用判断の精度向上 「勘」から「確信」へ。客観的で信頼性の高い情報に基づく採用判断が可能になります。
2. 定着率の向上 事前に特性を理解することで配属後のギャップを減少させ、早期離職による採用コストの無駄を削減できます。
3. 質の高い求職者との出会い 自己理解を深めた意欲的な人材と出会える可能性が高まります。
職場実習という「お試し期間」の効果
この制度で特に注目すべきは「職場実習」です。
企業にとっての価値:
- 採用前に実際の働きぶりを確認(1週間程度)
- 「この方と一緒に働くイメージ」を具体的に描ける
- 書類や面接では見えない適性・スキルを直接評価
職場実習は雇用ではないため、労務管理上の負担は最小限。評価・学習目的の体験として位置づけられています。
定着支援との連携で長期雇用を実現
就労選択支援制度の真価は、雇用後の定着支援との連携にあります。アセスメント結果は雇用後の配慮や支援計画の基礎資料となり、長期的な雇用継続につながります。
アセスメント結果が就労定着支援(7か月目〜最長3年6か月)に引き継がれ、必要時にはジョブコーチも投入。採用→定着まで一貫した支援が可能になるのです。
障害者雇用において最も重要なのは「適切なマッチング」です。この制度を活用することで、企業は:
- より精度の高い採用判断ができる
- 入社後の配慮事項を事前に把握できる
- 定着支援機関との連携がスムーズになる
人事担当者がやるべき準備
1. ハローワーク担当者との関係構築
具体的アクション:
- 担当ハローワークに電話一本:「2025年10月から就労選択支援制度が始まりますが、弊社が知っておくべきことはありますか?」
- 「アセスメント結果を持った方が応募された場合、どんな情報が提供されるのか教えてください」と質問
なぜ準備が必要か: 制度開始後、ハローワーク経由の応募者の中に「アセスメント済み」の方が混在します。その時に慌てないよう、事前に情報収集とパイプ作りをしておく必要があります。
2. 職場実習受け入れ体制の検討
具体的アクション:
- 実習可能な部署・業務をリストアップ
- 1週間程度の実習プログラム案を作成
- 実習時の評価ポイント(作業精度、コミュニケーション、勤怠など)を明文化
なぜ準備が必要か: 職場実習は「無料のお試し採用」のようなもの。体制が整っていない企業は、優秀な人材との出会いの機会を逃してしまいます。
3. 現在の採用課題の数値化
具体的アクション:
- 過去3年間の障害者雇用における早期離職率を算出
- 採用後3か月以内の離職理由を分析
- 「面接時の印象と入社後のギャップ」を具体的に書き出す
なぜ準備が必要か: この制度の効果を測定するベースラインが必要です。また、現在の課題が明確になれば、制度活用の必要性も見えてきます。
この制度で変わる採用の現実
【Before】従来の採用プロセス
書類選考 → 面接(30分) → 採用判断
↓
入社後に「こんなはずじゃなかった」
↓
早期離職(採用コスト300万円が無駄に)
【After】就労選択支援活用後
アセスメント結果確認 → 職場実習(1週間) → 面接 → 採用判断
↓
お互いの理解が深まった状態で入社
↓
長期定着(定着支援とも連携)
数字で見る効果予測:
- 早期離職率:30% → 10%以下
- 採用後の追加配慮:月平均5時間 → 2時間以下
- マネージャーの負担:「予想外の対応」が大幅減少
制度開始に向けた準備チェックリスト
□ 地域の就労選択支援事業所リストを入手 □ 職場実習受け入れマニュアル完成 □ 社内関係部署への制度説明会実施
□ アセスメント結果活用の社内方針決定
結論:「準備する企業」と「準備しない企業」の差
2025年10月以降、企業は二つに分かれます。
準備した企業:
- アセスメント結果を活用した精度の高い採用
- ミスマッチの少ない長期安定雇用
- 法定雇用率達成への着実なステップ
準備しなかった企業:
- 従来通りの「勘頼み」の採用が続く
- 早期離職による採用コストの浪費
- 法定雇用率達成への遠回り
この差は、事前の準備で決まります。
障害者雇用を「義務だから仕方なく」ではなく、「多様な人材を活かして組織を強くする戦略」として捉える。そのためのツールが、就労選択支援制度です。
準備に遅すぎることはありません。しかし、早すぎることもありません。
その面接で、本当に「その人」がわかりますか?
まとめ
就労選択支援制度は「義務」ではなく「チャンス」としてとらえるべき仕組みです。
現時点ではB型新規利用者を対象にスタートしますが、将来的には就職活動や企業採用の現場でも活用されていくと見込まれます。
障害者雇用を「法定雇用率達成」のためだけでなく、 多様な人材を活かして組織を強くする戦略 として進めていくために、この制度をどう取り入れるか。
2025年10月は、その第一歩となるでしょう。
障がい者雇用を通じた組織づくりについて、お困りごとやご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。ともに、すべての社員が自分らしく輝ける職場を作っていきましょう。