障がい児を育てる親のキャリア支援―『終わりのない育児』に向き合う企業の新たな挑戦

定着支援・職場支援

障がい児を育てる親のキャリア支援―『終わりのない育児』に向き合う企業の新たな挑戦

📌 こんな方におすすめの記事です

  • 障がい児を育てる親のキャリア形成支援に取り組みたい人事担当者
  • 「終わりのない育児」を抱える従業員への配慮を検討している管理職
  • 多様な働き方を通じて組織力を向上させたい経営者・人事責任者

はじめに:見えない現実に目を向ける

「また今日も早退しなければならない」――そんな申し訳なさそうな表情で席を立つ同僚を、あなたは見かけたことがありませんか?

その背景に、障がいのある子どもを育てながら必死に働き続けようとする親の姿があることを、私たちはどれほど理解しているでしょうか。

障がい児を育てる親のキャリア支援。これは決して「特別な配慮」の話ではありません。むしろ、企業が真に多様性を受け入れ、すべての従業員が安心して働ける環境を築くための、必要不可欠な取り組みなのです。

近年、障がい者雇用促進法をはじめとする各種支援制度の充実により、障がい当事者への就労支援は確実に進展しています。特別支援学校から企業への就職率向上、ジョブコーチ制度の普及、合理的配慮の義務化など、障がいのある方が働くための環境は着実に整備されてきました。

しかし、その一方で見過ごされがちなのが、障がい児を育てる保護者のキャリア支援です。子どもの支援制度は充実する一方で、その子どもを支える親たちのキャリア継続については、十分な制度も理解もまだまだ不足しているのが現実です。

この「隠れた課題」は、単に親個人の問題に留まりません。保護者が安定したキャリアを継続できない状況は、家族全体の生活基盤を揺るがし、結果として障がいのあるお子さん本人の将来の選択肢や可能性にも影響を与えてしまうのです。

私たちは、障がい当事者への支援と同じ熱量で、その家族を支える仕組みについて考えてきたでしょうか?

厚生労働省の調査によると、障がいや病気のある子どもを育てる親の54.9%が「自分や配偶者が倒れたときに家庭が回らなくなる」という不安を抱えています。また、45.1%の親が「平日に子どもを病院や療育施設等へ連れていくため、たびたび仕事を休んだり抜けたりしなければならない」という状況に直面しています。

果たして、私たちの職場は、こうした現実に寄り添えているでしょうか?


データが物語る、支援の現状と課題

まず、現状を数字で見てみましょう。障がい児を育てる家庭の実態は、想像以上に厳しいものがあります。

放課後等デイサービス利用者数:
2012年度 53,590人 → 2023年度 341,377人(約6.4倍の増加)

この数字の背景には、障がいのある子どもを持つ家庭の切実なニーズがあります。放課後等デイサービスの急速な拡大は、単にサービスが整備されたからではなく、働く親たちの「預け先がない」という深刻な課題の表れなのです。

しかし、サービスが増えても、親たちの就労環境は改善されているでしょうか。実際の就労状況を見ると、厳しい現実が浮かび上がってきます。

項目障がい児の母親一般の母親
就労率42.7%約70%
正規雇用率(就労者中)31.2%約50%
転職・離職経験多数相対的に少ない

これらの数字は、障がい児を育てる親が直面する構造的な困難を如実に示しています。


父親と母親、それぞれの葛藤

父親が抱える「大黒柱」としてのプレッシャー

ある外勤記者の男性は、障がいのある子どもの育児と仕事の両立に悩んでいました。これまでキャリアを積んできた現場での仕事を続けたい気持ちと、子どもの療育に関わりたい想いの間で揺れ動く日々。結局、本来の希望とは異なる部署での「綱渡りかつ中途半端な状況」に身を置くことになりました。

多くの父親は、子どもの医療費や療育費を確保するため、長時間労働や昇進を追求する傾向にあります。しかし、これが皮肉にも、子どもとの時間を奪い、夫婦間での育児負担の偏りを生み出してしまうのです。

調査によると、障がい児のケアの約9割を母親が担っているという現実があります。父親が仕事に集中するほど、夫婦間の負担は不均衡になり、これが家庭内の溝を深める最大の要因となっています。

母親が直面する「社会からの切り離され感」

一方、母親たちはどのような状況に置かれているでしょうか。子どもの障がいが判明した瞬間、多くの母親が「仕事は無理」という直感を持ち、社会から切り離されたような閉塞感を抱きます。

ある母親は、キャリアストップ後、理想の働き方を実現するまでに12年かかり、その間100社以上に履歴書を送ったものの、なかなか採用に至らない失意の日々を過ごしました。これは決して珍しい話ではありません。

「休みはもっと欲しいけど、仕事をする時間ももっと欲しい。常にジレンマ」――この声に、あなたはどう応えますか?


企業に真に求められている支援とは

障がい児を育てる親が職場に求めているのは、決して「特別扱い」ではありません。彼らが求めているのは、予測不可能な状況に柔軟に対応できる仕組みと、長期的な視点でのキャリア継続の可能性です。

「時間の壁」を乗り越える仕組み

  • 緊急時の即応性:突然の呼び出しに対応できる有給・無給の短時間休暇制度
  • 通院・療育の時間確保:定期的な通院や療育に合わせた柔軟な勤務時間設定
  • 長期的な支援体制:短時間勤務、在宅勤務、フレックス制度の組み合わせ
  • 理解ある職場環境:管理職・同僚の理解促進と、配置転換時の配慮

しかし、現実はどうでしょうか。厚生労働省の調査では、従業員に障がいのある子どもがいても「特に配慮していることはない」と回答した企業が81.7%に上っています。


先進企業の取り組みから学ぶ

一方で、積極的に取り組む企業も現れています。その事例から、実践的なヒントを見つけることができます。

ソフトバンクの包括的支援

  • 子の看護休暇:小学校卒業まで年間10日(時間単位取得可能)
  • 有給の「キッズ休暇」:年間10日
  • 育児短時間勤務:小学校6年修了まで(最大2時間45分短縮)
  • 在宅勤務とフレックス制度の併用

日産自動車の柔軟な制度設計

  • 「ファミリーサポート休暇」:年度12日(うち5日有給、1時間単位取得可)
  • 対象範囲:結婚、配偶者出産、育児、介護、不妊治療を包括
  • 突発的な事情にも対応できる柔軟な運用

これらの事例を見ると、単発的な制度ではなく、包括的で長期的な視点での支援体制が重要であることがわかります。障がい児の育児は「終わりのない育児」だからこそ、企業側も持続可能な支援の仕組みを考える必要があるのです。


よくある誤解と真実:支援への不安を解く

障がい児を育てる親への支援について、企業の担当者からよく聞かれる声があります。「特別扱いになるのではないか」「他の従業員から不満が出るのではないか」「コストがかかりすぎるのではないか」…。

しかし、これらの懸念の多くは誤解に基づいています。実際の現場では、どのような声が聞かれるのでしょうか。

誤解1:「特別扱いは不公平だ」

よく聞く声:「障がい児の親だけ特別扱いするのは、他の従業員に不公平ではないか」

真実:実際に支援制度を導入した企業では、「子育て中の全従業員にとって働きやすくなった」「自分にも何かあったときの安心感が生まれた」という声が多く聞かれます。柔軟な働き方の選択肢が増えることで、組織全体の満足度が向上するのです。

誤解2:「生産性が下がるのではないか」

よく聞く声:「時短勤務や在宅勤務が増えると、チームの生産性が落ちる」

真実:ある製造業企業では、障がい児を育てる従業員への柔軟な働き方を導入した結果、その部署の離職率が前年比30%減少。採用・研修コストの削減により、実質的な生産性は向上しました。「安心して働ける環境」が、結果として組織のパフォーマンス向上につながったのです。

誤解3:「コストばかりかかる」

よく聞く声:「支援制度にはお金がかかるだけで、企業にメリットはない」

真実:実際には、多くの支援策は制度設計と運用の工夫で実現可能です。最も重要なのは「理解」と「柔軟性」。金銭的コストよりも、組織の意識改革の方が重要なのです。

これらの真実を知った今、あなたの会社ではどのような変化が起こせそうでしょうか?


企業にとってのメリット:投資以上のリターンがある理由

障がい児を育てる親への支援は、企業にとって「コスト」ではなく「投資」です。その投資がもたらすリターンは、想像以上に大きなものがあります。

1. 人材確保と定着率の向上

採用コスト削減効果:
中途採用1名あたり平均103万円のコストが、定着率向上により削減可能

ある情報サービス企業では、障がい児を育てる優秀なエンジニアの退職を機に支援制度を見直しました。結果として、その後3年間で同様のケースでの離職はゼロ。「あの会社は働きやすい」という評判が広がり、優秀な人材の応募も増加したといいます。

2. 組織全体のエンゲージメント向上

「会社が自分たちのことを本当に考えてくれている」――この実感は、障がい児を育てる親だけでなく、組織全体に波及します。

実際に支援制度を導入したある企業では、従業員満足度調査で「会社への信頼度」が20ポイント上昇。「いざというときの安心感」が、全従業員のモチベーション向上に寄与したのです。

3. イノベーション創出力の向上

多様な働き方を受け入れる組織は、多様な視点を持つ人材が活躍できる土壌があります。障がい児を育てる親は、限られた時間で成果を出すスキルや、予期せぬ事態への対応力に長けていることが多く、これらの能力は組織全体の問題解決力向上に貢献します。

4. 企業ブランド価値の向上

ESG投資の拡大:
世界のESG投資残高は35.3兆ドル(2020年)、日本でも急速に拡大中

社会的責任を果たす企業への投資家や顧客の関心は年々高まっています。障がい児を育てる親への支援は、企業のサステナビリティ経営の重要な要素として評価されるのです。

これらのメリットを考えたとき、支援制度への投資をどのように捉え直すことができるでしょうか?


2025年法改正を踏まえた実践的提言

2025年4月から施行される育児・介護休業法の改正は、企業にとって重要な転換点となります。この機会を活かし、障がい児を育てる親への支援を体系的に整備することを提案します。

法改正のポイント:
障がいや医療的ケアのある子を育てる労働者への「望ましい対応」として、短時間勤務や子の看護休暇の期間延長が明記

具体的な実装パッケージ

1. 時間裁量の基盤整備

  • 短時間勤務の利用期間を小学校卒業まで延長(障がい・医療的ケアがある場合は個別延長)
  • 在宅勤務・フレックス制度の常設化
  • 時間単位での年次有給休暇・子の看護休暇の充実

2. 緊急時対応システム

  • 「緊急対応休暇」の制度化(有給・無給選択制)
  • 承認フローの簡素化
  • 事由別の申請テンプレート整備

3. キャリア継続の保障

  • 評価・昇進における時短・在宅勤務等の非不利益原則の明文化
  • 配属・異動時の本人意向確認の義務化
  • 医療機関・学校・福祉施設へのアクセスを考慮した人事配置

4. 情報提供と伴走支援

  • 「障がい児育児×就業」専門相談窓口の設置
  • 外部専門機関(社会福祉士、医療的ケア児等コーディネーター)との連携
  • 公的支援制度の情報提供とナビゲーション

これらの施策について、あなたの会社ではどこから始められそうでしょうか?


小さな一歩から始める:明日からできる実践ガイド

「何から始めればよいかわからない」――そんな声をよく耳にします。しかし、大がかりな制度変更をしなくても、明日からできることがあります。

Step1:現状把握(1-2週間)

まずは、自社の状況を正確に把握することから始めましょう。

  • 従業員アンケートの実施(匿名・任意回答)
  • 既存の支援制度の利用状況確認
  • 離職理由の分析(特に育児関連)

実践例:ある中小企業では、「家族の状況について、困っていることがあれば教えてください」という簡単なアンケートを実施。その結果、3名の従業員が障がいのある子どもを育てており、そのうち1名が退職を検討していることが判明しました。

Step2:対話の場づくり(1ヶ月目)

制度を作る前に、まずは「聞く」ことから始めましょう。

  • 当事者との個別面談の実施
  • ニーズの具体的な把握
  • 既存制度で対応可能な部分の確認

「何に困っていますか?」このシンプルな問いかけから、どんな気づきが生まれるでしょうか?

Step3:低コスト施策から開始(2-3ヶ月目)

予算をかけずにできることから始めることで、組織の理解も得やすくなります。

  • 時間単位有給の導入:既存制度の運用変更で対応可能
  • 在宅勤務の柔軟化:通院日の在宅勤務を特別に認める
  • 管理職研修の実施:障がい児育児の理解促進
  • 相談窓口の設置:人事担当者が兼務で対応
低コスト施策の効果:
時間単位有給だけでも、緊急時対応の不安が大幅に軽減される(当事者アンケートより)

Step4:制度の体系化(6ヶ月目以降)

小さな取り組みの成果を検証しながら、より包括的な制度へと発展させていきます。

  • 就業規則の改定
  • 評価制度への反映
  • 全社への周知・啓発
  • 外部専門機関との連携体制構築

成功の秘訣:「完璧を求めず、改善を続ける」。ある企業の人事部長は、「最初から完璧な制度を作ろうとして失敗した経験がある。今は3ヶ月ごとに見直しをかけ、当事者の声を聞きながら改善している」と語っています。

あなたの会社では、どのステップから始めることができそうですか?そして、最初に話を聞いてみたい人は誰でしょうか?


未来への展望:共に歩む社会へ

障がい児を育てる親のキャリア支援は、単なる福利厚生の充実ではありません。それは、企業が真の意味で多様性を受け入れ、すべての従業員が安心して働ける「共生社会」を築くための重要な一歩なのです。

この取り組みを通じて、私たちが目指すのは「誰も取り残されない職場」です。障がい児を育てる親が安心して働けるということは、介護を抱える従業員も、病気を患う従業員も、様々な事情を抱えるすべての人が安心して働ける組織であることを意味します。

私たちが目指すべきは、障がいのある子どもを育てながらも、親が自分らしくキャリアを継続できる社会です。そして、そのような社会は、すべての人にとって働きやすい環境でもあるはずです。

医療的ケア児支援法では、その目的に「家族の離職防止」が明記されています。これは、障がい児を育てる親の就労継続が、単なる個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題であることを示しています。

社会的インパクト:
障がい児を育てる親の就労継続により、年間約1,200億円の経済効果(厚生労働省試算)

企業の皆さまには、ぜひこの課題を「誰か他の人の問題」ではなく、「私たちの組織の課題」として捉えていただきたいのです。なぜなら、障がい児を育てる親への支援は、結果的に、組織全体の柔軟性と包容力を高め、すべての従業員にとってより良い職場環境を生み出すからです。

一人ひとりが安心して働ける職場。それは、障がいの有無にかかわらず、すべての人が自分らしく輝ける社会への第一歩となるでしょう。

そして今、この記事を読んでいるあなたは、明日からどんな一歩を踏み出しますか?

まとめ

障がい児を育てる親のキャリア支援は「義務」ではなく「チャンス」として捉えるべき取り組みです。
障がい当事者への支援は進展する一方で、保護者のキャリア継続支援はまだまだ手薄な現状があります。

2025年の法改正を機に、企業が多様な人材を活かして組織を強くする戦略として、障がい児を育てる親への包括的な支援をどう構築していくか。
それは、すべての人が輝ける職場づくりの第一歩となるでしょう。


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ともに、すべての社員が自分らしく輝ける職場を作っていきましょう。