「従業員のメンタル不調、どう対応する?」――リワーク活用と復職後の定着支援【後編】

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📌 こんな方におすすめの記事です

  • リワーク施設の種類や選び方について知りたい人事・労務担当者
  • 復職者の受け入れ体制を整えたい管理職
  • 復職支援をコストではなく投資として捉えたい経営者・人事責任者

はじめに:復職支援に込められた可能性

前回の記事では、従業員のメンタル不調への初期対応についてお話ししました。
今回は、いよいよ復職に向けた具体的な支援策と、復職後の定着を成功させるポイントをお伝えします。

「リワークって本当に効果があるの?」「復職してもまた休んでしまうのでは?」

そんな不安を抱えている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。しかしながら、リワークプログラムを利用した方の定着率は、利用しなかった場合と比較して明らかに高いことが多くの研究結果で報告されています。

3つのリワーク施設、それぞれの特徴を知る

「そもそもリワーク施設ってなんなの?そんな施設を利用する必要なんてあるの?どこも同じじゃないの?」そう思われるかもしれません。

リワークとは、「就労準備のための訓練プログラム」のことです。家で休んでいるだけでは難しい「職場復帰のためのウォーミングアップ」を専門的なサポートを受けながら行える場所のことですが、なぜわざわざ施設に通わせる必要があるのでしょうか?

それは生活と仕事では求められることが大きく違うからです。

日常生活では「体調が良くなること」が目標ですが、職場では「決められた時間に集中して働くこと」「チームで協力すること」「ストレスに対処すること」が必要になります。

そこで、リワーク施設では、実際の職場に近い環境で、少しずつ「働く力」を取り戻していくことができるので、一人で準備するより、専門家や同じ経験を持つ仲間と一緒に進める方が、安心できますし、より確実に復職を目指すことができます。

このリワーク施設には大きく3つのタイプがあり、それぞれ特徴が異なりますので、どの施設が従業員の方に合っているのか。それを見極めることが、復職成功への第一歩になります。

3つのリワーク施設 比較表

タイプ運営主体特徴適している方期間費用
医療リワーク
(精神科デイケア)
病院・クリニック医師の診察と連携
体調安定+就労支援の両立
体調が不安定
服薬調整が必要
3〜7ヶ月保険適用
(自立支援医療で1割負担の場合も)
就労移行支援型
リワーク
福祉サービス事業所実践的なビジネススキル訓練
客観的評価
転職も視野
スキルアップ重視
3ヶ月〜2年前年度所得に応じた負担
(多くは無料)
地域障害者
職業センター
各都道府県の公的機関企業・主治医との三者連携現職への復職確定
企業連携重視
約3ヶ月
(要確認)
完全無料

医療リワーク(精神科デイケア)――まずは体調の安定から

病院やクリニックが運営するリワークは、医師の診察と連携しながら進められるのが最大の特徴です。まだ体調が不安定な方、服薬調整が必要な方にとっては、医学的なフォローを受けながら復職準備ができる安心感があります。

最近では、体調管理だけでなく就労支援にも力を入れる施設が増えてきました。「病院だから体調のことだけ」ではなく、実際の職場復帰を見据えたプログラムを提供している医療機関も多くなっています。

期間は3〜7ヶ月程度。保険適用により自己負担額は抑えられます(自立支援医療制度の適用で1割負担となる場合も多く、日額数百円〜数千円程度)。「まずは体調を整えることが最優先。でも就労準備も並行して進めたい」という方には、この選択肢が適しています。

就労移行支援型リワーク――実践力を磨きたい方へ

福祉サービス事業所が運営するリワークは、より実践的なビジネススキル訓練に重点を置いています。客観的な評価システムがあり、自己分析を深めながら、転職も視野に入れたキャリア形成を考えたい方に適しています。

期間は3ヶ月〜2年程度と幅があります。前年度所得に応じた負担上限があるため、多くの場合は無料で利用できます。「もう一度、自分の働き方を見つめ直したい」という方には心強い選択肢です。

※基本的には離職中の方が対象ですが、お住まいの自治体によっては、復職を前提とした休職中の利用が認められるケースも増えています。まずは確認が必要です。

地域障害者職業センター――企業との連携を重視

各都道府県に設置された公的機関です。最大の特徴は、企業・主治医との三者連携を重視していること。現在の職場への復職が確定している方にとっては、会社と密に連携しながら進められる安心感があります。

期間は約3ヶ月(個人差があるため事前確認が必要)、完全無料で利用できます。「今の職場に戻りたい。でもしっかり準備したい」という方には適した選択肢です。

復職可否の判定、ここが分かれ道

「主治医から『就労可能』と診断書が出たから大丈夫」そう思っていませんか?

実は、主治医の「就労可能」という判定と、実際の職場復帰の準備状況には、しばしばギャップがあります。主治医は主に「日常生活ができるレベル」で判定しますが、職場では「8時間の集中力」「業務ストレスへの対処」「チームでの協調性」が求められます。

だからこそ、リワーク施設での客観的な評価が重要になるのです。2時間以上の作業課題への取り組み、複数業務の並行処理、締切のある作業への対応。グループワークでの協調性、ストレス場面でのコミュニケーション。そして何より、体調変化の自己把握やストレス対処法の実践。

産業医の専門的な意見を最大限に尊重し、最終的に会社が復職を決定します。この合意形成のプロセスが、後のトラブルを防ぎます。

【復職可否判定のポイント】

  • 主治医判定の限界:日常生活レベルでの判定
  • 職場で必要なこと:8時間の集中力、ストレス対処、協調性
  • リワークでの確認:作業持続力、対人スキル、セルフケア能力
  • 産業医の役割:医学的見地からの専門的意見の提供
  • 会社の役割:産業医意見を踏まえた最終判断

人事担当者が抱える「言いにくいジレンマ」

ここで、皆さまがきっと一度は感じたことがある「本音」について触れさせてください。

「傷病手当金は1年6ヶ月出るけれど、会社の休職期間はいつまで?」「欠員の補充はどうすればいい?」「復職時期が読めない中で、組織運営をどう回せばいい?」「完全に回復してからじゃないと復帰させられない?」

こうした疑問は、決して冷たい考えではありません。従業員を大切に思うからこそ、そして組織全体の責任を負っているからこそ生まれる、当然の悩みです。

実は、この「言いにくいジレンマ」にしっかりと向き合うことが、従業員にも会社にも優しい結果をもたらします。

就業規則で定めるべき3つのポイント

曖昧なままでは、従業員も不安になりますし、会社としても適切な判断ができません。

1. 休職期間の上限を明確に:勤続年数に応じた期間設定(例:勤続1年未満は3ヶ月、1〜3年は6ヶ月、3年以上は1年など)を明記し、全従業員に周知する

2. 復職基準を具体的に:「完全に元通り」ではなく段階的な復職を前提とし、主治医の診断、産業医の判断、通常業務の一定割合の遂行見込み、本人の復職意欲などを総合的に判断する基準を明記する

3. リハビリ勤務制度の整備:期間(1〜3ヶ月程度)、勤務時間(通常の50〜80%から)、業務内容、定期的な評価方法を具体的に定める
※リハビリ勤務中の給与(無給か短時間勤務として給与支払か)、労災適用の扱いについては、社労士と相談して明確に設計することが重要です。

「決められない」ことが最も残酷です。明確な基準があることで、従業員には目標が、会社にはサポートの覚悟が生まれるのです。

【就業規則見直しのポイント】

  • 休職期間の上限:勤続年数別など明確な基準
  • 復職基準:主治医+産業医+業務遂行能力の複合判断
  • リハビリ勤務制度:期間・時間・業務内容・評価方法・給与の扱いを明記
  • 専門家活用:社労士・産業医との連携体制構築

復職後に起こりがちな「3つの失敗パターン」

復職後の失敗には、実は共通のパターンがあります。でも、それを知っていれば対策も立てられます。

パターン1:「100%復帰志向」の落とし穴

「せっかく復職したんだから、早く元通りに」そんな期待を、皆さまも従業員の方も、無意識に抱いてしまうことがあります。

でも考えてみてください。数ヶ月のブランクがあった後、いきなりフルパワーで働けるでしょうか?最初の1ヶ月は通常業務の6〜7割程度からスタートし、「焦らなくていい」というメッセージを継続的に伝えること。段階的な業務拡大計画を明示すること。それが、長期的な定着につながります。

【対策のポイント】

  • 初月は業務量6〜7割程度からスタート
  • 「焦らなくていい」メッセージの継続
  • 段階的な業務拡大計画の明示

パターン2:フォロー面談の「やりすぎ」と「やらなすぎ」

「どのくらいの頻度で面談すればいいの?」これも多くの人事担当者が悩まれるポイントです。

月1回では少なすぎる場合があります。問題が起きてから気づくのでは遅いかもしれません。かといって毎日がっつり面談するのも負担になります。

目安としては、復職1週目は毎日10分程度の声かけ。2〜4週目は週2回程度の面談。2ヶ月目以降は週1回、その後段階的に間隔を延ばしていく。そして面談では必ず、体調・業務進捗・人間関係の3点を確認することをお勧めします。

【フォロー面談の目安】

  • 1週目:毎日10分程度の声かけ
  • 2〜4週目:週2回程度の面談
  • 2ヶ月目以降:週1回→段階的に間隔を延ばす
  • 確認事項:体調、業務進捗、人間関係の3点

パターン3:「大丈夫です」を信じすぎてしまう

復職された方の多くは、「迷惑をかけたくない」という気持ちから、「大丈夫です」と言ってしまいがちです。でも本当に大丈夫でしょうか?

大切なのは、本人の言葉だけでなく、客観的指標も見ることです。勤怠は安定しているか、業務の品質は保たれているか、表情は明るいか。そして産業医面談を定期的にセット(月1回程度)し、複数の相談窓口を設置すること。

「言いにくいことも言える環境」を作ることが、再発防止の鍵になります。

【症状隠蔽への対策ポイント】

  • 客観的指標での確認(勤怠、業務品質、表情等)
  • 産業医面談を定期的にセット(月1回程度)
  • 複数の相談窓口を設置
  • 「言いにくいことも言える環境」づくり

投資対効果で見る復職支援の価値

「復職支援にはコストがかかる」そう思われるかもしれません。でも、視点を変えてみてください。新規採用には、どれくらいのコストがかかっているでしょうか?

ある製造業の企業での事例をご紹介します。従業員300名のA社では、リワーク利用支援に30万円、復職後のフォロー体制構築に20万円、産業医面談強化に15万円。総投資額は65万円でした。

その結果、復職成功率は85%、3年継続率は80%という成果を得られました。

一方、新規採用の場合はどうでしょうか?採用コストだけで150万円、教育コストで100万円。総コスト250万円です。つまり、この事例では1名の復職支援成功により、約185万円のコスト削減効果があったという計算になります。

しかも、既存のスキルを持った人材が早期に戦力化できるという付加価値もあります。復職支援は、決してコストではありません。れっきとした「投資」なのです。

【投資効果の一例(A社の場合)】

  • 新規採用コスト:採用150万円+教育100万円=250万円
  • 復職支援コスト:リワーク30万円+フォロー20万円+産業医15万円=65万円
  • コスト削減効果:約185万円/名(この企業の場合)
  • 付加価値:既存スキル活用、早期戦力化

復職者が組織にもたらす「見えない財産」

実は、リワーク経験者の多くが、復職後に驚くような変化を見せます。

体調変化への敏感な気づき。適切なタイミングでの相談。ストレス対処法の実践。自己管理能力が格段に向上しているのです。

そして、他者への配慮や思いやり。多様性への理解。建設的なコミュニケーション。チームワークも向上しています。

さらに、支えてもらった感謝からくる忠誠心。同じ悩みを持つ後輩への自然なメンター役。働き方改革への積極的な提案。組織への貢献意識も高まります。

ある管理職の方はこう話されました。「復職後の彼は、以前より周りをよく見るようになった。新人のフォローも積極的で、チーム全体の雰囲気が良くなった」

別の人事担当者の方は言います。「メンタル不調を経験したからこそ、無理をしない働き方を提案してくれる。残業時間も部署全体で減った」

困難を乗り越えた経験は、その人を、そして組織を、より強くするのです。

【復職者がもたらす価値】

  • 自己管理能力の向上:体調管理、適切な相談、ストレス対処
  • チームワークの向上:配慮と思いやり、多様性理解
  • 組織への貢献:感謝と忠誠心、メンター役、働き方改革提案

適切なフォローが生む、継続就労への道

復職後のフォロー体制の重要性については、多くの専門機関が指摘しています。

定期的な専門職による面談を実施している企業と、そうでない企業では、明らかに継続就労率に差が生まれることが知られています。復職成功の鍵は、復職させて終わりではなく、その後の丁寧な伴走にあるのです。

【フォロー体制のポイント】

  • 定期的な専門職面談の実施
  • 段階的な業務復帰プログラム
  • 複数の相談窓口の設置
  • 客観的な評価指標の活用

皆さまだからこそできること

ここまでお読みいただき、いかがでしたでしょうか?

復職支援を「負担」や「コスト」として捉えるか、それとも「投資」や「組織力向上の機会」として捉えるか。その視点の違いが、取り組み方も、そして結果も大きく変えていきます。

メンタル不調を経験した方々は、決して「弱い」人材ではありません。むしろ、困難を乗り越えた経験を持つ、組織にとってかけがえのない「財産」なのです。

人事担当者としての皆さまの理解と支援が、一人の人生を変え、そして組織全体をより良い方向に導いていく。その可能性を信じて、一歩ずつ取り組んでいただけたら幸いです。

「人を大切にする会社には、必ず人が集まってくる」

復職支援の充実は、採用力向上にもつながる、まさに一石二鳥の投資なのかもしれませんね。

この記事を読んで「うちの会社でも取り組みたい」「でも具体的にどう進めれば…」と感じられた方は、どうぞお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた実践的なアドバイスをさせていただきます。

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